前回の議論から $V$ のポテンシャル $W$ が存在し、前々回の議論から $H^0$ 成分を除いて $W$ は決定します。

\begin{align} \sum_{j=1}^{n-1}u_j\partial_{qu_j}W=\sum_{j=1}^{n-1}u_j\langle u_j,V\rangle=V \end{align}

これで $V$ が計算できました。$3$ つ目の漸化式を用いれば $\mathscr{S}_if$ から $\mathscr{V}_if$ を計算できるということですね。

$2$ つ目の漸化式は使わずじまいでしたが、これは別途考えることにしましょう。

さて、漸化式を辿ると $\mathscr{V}_if,\mathscr{S}_if$ のインデックスは $2,4,6,\ldots$ のように偶数を辿ることが分かります。したがって、最終項の扱いは $n$ の偶奇により異なります。まずは奇数の場合から考えましょう。

\begin{align} \mathscr{S}_2f\mapsto\mathscr{V}_2f\mapsto\mathscr{S}_4f\mapsto\cdots\mapsto\mathscr{S}_{n-1}f\mapsto\mathscr{V}_{n-1}f \end{align}

最終稿は $\mathscr{S}_{n-1}f,\mathscr{V}_{n-1}f$ ですね。$1$ つ目の漸化式は $i < n-1$ を条件に途中の計算を実行しましたが、$i=n-1$ の場合はどうなるのでしょうか。

\begin{align} &\dfrac{1}{2}\bigg\{\sum_{j=1}^{n-1}\langle u_j,\partial_{qu_j}\mathscr{V}_{n-1}f(r,q,z)\rangle+\sum_{j=1}^{n-1}\langle u_j,\partial_{qu_j}\mathscr{V}_{n-1}f(r,-q,z+2rq)\rangle\bigg\}\\ &\quad-\dfrac{r}{2}\bigg\{\sum_{j=1}^{n-1}\langle u_j,\partial_{u_j}\mathscr{V}_{n-1}f(r,q,z)\rangle+\sum_{j=1}^{n-1}\langle u_j,\partial_{u_j}\mathscr{V}_{n-1}f(r,-q,z+2rq)\rangle\bigg\}+\mathscr{S}_{n-1}f(r,q,z)\\ &=r\int_0^{\pi}\bigg\{\int_{\partial S_q}\cos\varphi(\sin\varphi\partial_q-\cos\varphi\partial_x)f\omega^q\bigg\}\,d\varphi+\int_0^{\pi}\bigg\{\int_{\partial S_q}\sin\varphi f\omega^q\bigg\}\, d\varphi\\ &=-\bigg[\int_{\partial S_q}\cos\varphi f\omega^q\bigg]_0^{\pi}\\ &=\int_{\partial S_q}\{f(z)+f(2rq+z)\}\omega^q\\ &=\sigma_{n-2}\{f(z)+f(2rq+z)\} \end{align}

非常にシンプルな式になりました。この式を

\begin{align} 2f(z)=\{f(z)+f(2rq+z)\}-\{f(z+2rq)+f(z+rq+\sqrt{3}ru)\}+\{f(z+rq+\sqrt{3}ru)+f(z)\} \end{align}

の右辺に使えば $f(z)$ が求まります。以上で、$n$ が奇数の場合の $\mathscr{S}_2$ の反転公式が構築できました。

では、$n$ が偶数の場合はどうなるでしょうか。

\begin{align} \mathscr{S}_2f\mapsto\mathscr{V}_2f\mapsto\mathscr{S}_4f\mapsto\cdots\mapsto\mathscr{S}_nf\mapsto\mathscr{V}_nf \end{align}

最終稿は $\mathscr{S}_nf,\mathscr{V}_nf$ ですね。最初に注意していた通り、$\mathscr{V}_nf$ は変数 $\varphi$ に関して円周上のヒルベルト変換になっていますね。なお、$H^0$ 成分は $\mathscr{S}_nf$ から計算できます。これですべての場合の反転公式が完成しました。

今回はここまで。次回は、$2$ つ目の漸化式に関して少し考えてみましょう。(written by J.Nishigata)

研究85- 球面の族に関する積分変換と球面上の積分変換の関係その２