今回も、まずは積分変換から定義していきましょう。

\begin{align} \mathscr{K}f:[0,1/2)\times S^{n-1}\ni(r,y)\mapsto\int_{S(r,y)}\dfrac{\langle y-rx,x\rangle}{\|y-rx\|}f(x)\omega,\ S(r,y)=U_{\arccos(r)}(y) \end{align}

$U_{\arccos(r)}(y)$ は $\mathbb{R}^n$ の近傍ではなく $S^{n-1}$ 上の近傍とします。この積分変換は、点 $y/r$ への射影測度です。球面上の $x$ での重み付き面素 $xf(x)\omega$ を $y/r-x$ 方向へ射影して積分したものですね。$y/r$ から見て影になる部分は積分しません。

変数 $r$ の定義域は $[0,1]$ としても良いのですが、$r\to 1$ の極限では面白くない積分変換になってしまうため、勝手に $r=1$ の近傍を除いています。

点への射影測度を扱うとき、変数 $r$ は定義域の値を自由にとれるとするのではなく、或る指定した値の近傍に制限することが良くあります。大雑把に言ってしまうと、値を動かすことはできないが微分することは許可されている、という理解で良いでしょう。

$r > 0$ の場合は難しいので、今回は簡単な $r=0$ 近傍の話をしましょう。

\begin{align} \mathscr{K}f(0,y)=\int_{S_y}\langle x,y\rangle f(x)\omega \end{align}

これは半球面コサイン変換ですね。球面ラプラシアンを計算すると

\begin{align} \Delta^S\mathscr{K}f(0,y)=\int_{\partial S_y}f\omega^y-(n-1)\mathscr{K}f(0,y) \end{align}

が得られます。以前説明したように、偶関数成分はこの式で完全に記述できます。残るは奇関数成分ですね。

$r=0$ での $r$ 方向の微分係数はどうなるでしょうか。

\begin{align} \partial_r\mathscr{K}f(0,y)=-\int_{\partial S_y}f\omega^y+\int_{S_y}(-1+\langle x,y\rangle^2)f\omega \end{align}

半球面コサイン変換の球面ラプラシアンの式と連立させて、球面ラドン変換の項を消去すると

\begin{align} (\partial_r+\Delta^S+n-1)\mathscr{K}f(0,y)=\int_{S_y}(-1+\langle x,y\rangle^2)f\omega \end{align}

右辺は多項式型の積分核をもつ積分変換になりました。後はファンク-ヘッケの定理を右辺に使えば良いですが、以前多項式型積分核の節で述べたように球面ラプラシアンを計算し

\begin{align} \Delta^S(\partial_r+\Delta^S+n-1)\mathscr{K}f(0,y)=\int_{\partial S_y}\partial_yf\omega^y+2\int_{S_y}(1-n\langle x,y\rangle^2)f\omega \end{align}

から $2$ 次の項を消去して

\begin{align} &(2n(\partial_r+\Delta^S+n-1)+\Delta^S(\partial_r+\Delta^S+n-1))\mathscr{K}f(0,y)\\ &=\int_{\partial S_y}\partial_yf\omega^y+2(1-n)\int_{S_y}f\omega \end{align}

再び球面ラプラシアンを掛けた

\begin{align} &\Delta^S(2n(\partial_r+\Delta^S+n-1)+\Delta^S(\partial_r+\Delta^S+n-1))\mathscr{K}f(0,y)\\ &=\Delta^S\int_{\partial S_y}\partial_yf\omega^y-2(1-n)\int_{\partial S_y}\partial_yf\omega^y \end{align}

と変形してから定理を使った方が楽ですね。今回はここまで。次回は、球面の族に関する積分変換の話をします。(written by J.Nishigata)

研究76- 点への射影測度その１