前回に引き続き反転公式の計算を進めます。前回の最後に得られた式を振り返りましょう。

\begin{align} A&=-2r\int_0^1\bigg\{\int_0^{2\pi}\bigg\{\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\dfrac{1}{\sin\phi+(1+X^2)/(2X)}\partial_r\psi(r,z+rXe(\tau))\\ &\quad +\dfrac{\sin\phi}{\sin\phi+(1+X^2)/(2X)}\partial_{e(\tau)}\psi(r,z+rXe(\tau))\,d\phi\bigg\}\,d\tau\bigg\}\,dX \end{align}

反転公式に含まれる積分の回数は、ヒルベルト変換の計算に $1$ 回、逆ヒルベルト変換に $1$ 回、安定化に $1$ 回でトータル $3$ 重に掛かっています。しかし、最後の式を見てみると、$\phi$ に関する積分は簡単になりそうな気がしますね。

\begin{align} \int_{-\pi/2}^{\pi/2}\dfrac{d\phi}{a+\sin \phi},\ a > 1 \end{align}

$t=\tan(\phi/2)$ で置換すると

\begin{align} &dt=\dfrac{d\phi}{2\cos^2(\phi/2)}=\dfrac{1+t^2}{2}\,d\phi,\\ &\dfrac{1}{a+\sin \phi}=\dfrac{1}{a+2\sin(\phi/2)\cos(\phi/2)}=\dfrac{1+t^2}{a(1+t^2)+2t} \end{align}

となることに注意して

\begin{align} \int_{-\pi/2}^{\pi/2}\dfrac{d\phi}{a+\sin \phi}=2\int_{-1}^1\dfrac{dt}{a(1+t^2)+2t}=2\int_{-1}^1\dfrac{dt}{\{\sqrt{a}t+1/\sqrt{a}\}^2+a-1/a} \end{align}

更に

\begin{align} \sqrt{a-\dfrac{1}{a}}\tan\theta=\sqrt{a}t+\dfrac{1}{\sqrt{a}} \end{align}

と置換すると

\begin{align} 2\int_{-1}^1\dfrac{dt}{\{\sqrt{a}t+1/\sqrt{a}\}^2+a-1/a}=\dfrac{2}{\sqrt{a^2-1}}\int_{\theta_1}^{\theta_2}d\theta=\dfrac{2}{\sqrt{a^2-1}}(\theta_2-\theta_1) \end{align}

このように積分ができました。積分区間は

\begin{align} \sqrt{a-\dfrac{1}{a}}\tan\theta_1=-\sqrt{a}+\dfrac{1}{\sqrt{a}},\ \sqrt{a-\dfrac{1}{a}}\tan\theta_2=\sqrt{a}+\dfrac{1}{\sqrt{a}} \end{align}

を解けば求まりますが、$2$ つの式の積を計算することによって

\begin{align} \bigg(a-\dfrac{1}{a}\bigg)\tan\theta_1\tan\theta_2=-a+\dfrac{1}{a} \end{align}

すなわち $\tan\theta_1\tan\theta_2=-1$ であることから $\theta_2-\theta_1=\pi/2$ であることが分かりますね。以上より

\begin{align} \int_{-\pi/2}^{\pi/2}\dfrac{d\phi}{a+\sin \phi}=\dfrac{\pi}{\sqrt{a^2-1}} \end{align}

が得られます。これを反転公式の計算に使うと

\begin{align} A=-4\pi r\int_0^1\bigg\{\int_0^{2\pi}\bigg\{\dfrac{X}{1-X^2}\partial_r\psi(r,z+rXe(\tau))-\dfrac{X^2}{1-X^2}\partial_{e(\tau)}\psi(r,z+rXe(\tau))\bigg\}\,d\tau\bigg\}\,dX \end{align}

シンプルな式になりましたね。今回はここまで。ノンブラインド-デコンボリューションの話は一旦クローズします。次回は、デコンボリューション以外でのヒルベルト変換の応用を紹介していきます。(written by J.Nishigata)

研究54- 最小な反転公式フィルタの導出の続き