まず、定義からやりましょう。

\begin{align} A(y)=\mathrm{pv.}\int_{\mathbb{R}}\dfrac{f(y-x)}{x}\,dx \end{align}

が存在するとき $f$ はヒルベルト変換可能であると言い、$A$ を $f$ のヒルベルト変換 $\mathscr{H}f$ と定義します。ここで $\mathrm{pv.}$ は発散特異点 $x=0$ の近傍で

\begin{align} \mathrm{pv.}\int_{\mathbb{R}}=\lim_{\varepsilon\to+0}\int_{\mathbb{R}\setminus(-\varepsilon,\varepsilon)} \end{align}

のように工夫した積分(コーシーの主値積分という)を意味します。ヒルベルト変換は電気回路等の信号処理分野で登場することが多いため、ご存じの方も多いでしょう。

どのような関数がヒルベルト変換可能であるのかというと、例えば絶対可積分な微分連続関数はヒルベルト変換可能ですね。

$f$ が絶対可積分な微分連続関数ならば $f$ はフーリエ変換も可能であり、畳込み定理より $\mathscr{H}f$ もフーリエ変換可能で

\begin{align} m(z)\mathscr{F}f(z)=\mathscr{F}\mathscr{H}f(z),\ m(z)=\mathrm{pv.}\int_{\mathbb{R}}\dfrac{e^{-2\pi ixz}}{x}\,dx \end{align}

が成立します。$m(z)$ を計算すればヒルベルト変換の特徴が明確になります。$m(z)$ は留数定理を使えば簡単に計算できます。$x=re^{i\theta}$ とおくと

\begin{align} |x|\dfrac{e^{-2\pi ixz}}{x}=e^{2\pi zr\sin\theta}e^{-2\pi izr\cos\theta}e^{-i\theta}\to 0\ \text{as }r\to\infty\ \text{with }z\sin\theta<0 \end{align}

これに注意して $z<0$ の場合

\begin{align} m(z)=\pi i\mathrm{Res}(0)=\pi i \end{align}

$z>0$ の場合は

\begin{align} m(z)=-\pi i\mathrm{Res}(0)=-\pi i \end{align}

以上でヒルベルト変換の特徴が分かりました。

\begin{align} m(z)\mathscr{F}\mathscr{H}f(z)&=m(z)^2\mathscr{F}f(z)\\ &=-\pi^2\mathscr{F}f(z)\\ &=\mathscr{F}[-\pi^2f](z) \end{align}

より逆ヒルベルト変換も分かりますね。今回はここまで。次回はヒルベルト変換の拡張を考えていきます。(written by J.Nishigata)

研究26- ヒルベルト変換