ヒルベルト変換の積分核は $1/(x-y)$ です。(便宜上 $-1$ 倍しています。)この積分核を変形させることによって拡張を考えていきましょう。

$1/(x-y)+\kappa(x,y)$ としてみましょう。$\kappa(x,y)$ が $x-y$ の関数ならばスペクトルを考えることにより容易に性質が分かってしまい、余り面白くありませんね。一般的には $1/(x-y)+\kappa(x,y)$ という積分核の積分変換には畳込み定理は使えないので、実空間で拡張の方向性を考えなければなりません。

そこで、まずは実空間でのヒルベルト変換の特徴から調べることにしましょう。$f$ が唯一の符号をスイッチさせる零点 $x_1$ をもつ場合

\begin{align} \mathscr{H}f(x_1)=\int_{\mathbb{R}}\dfrac{f(x)}{x-x_1}\,dx\neq 0 \end{align}

は明らかですね。したがって、この関数 $f$ はヒルベルト変換の零点にはなりません。続いて、$f$ の符号をスイッチさせる零点が異なる $2$ 点 $x_1 < x_2$ のみである場合

\begin{align} \mathscr{H}f(x_1)-\mathscr{H}f(x_2)=\int_{\mathbb{R}}\bigg(\dfrac{1}{x-x_1}-\dfrac{1}{x-x_2}\bigg)f(x)\,dx \end{align}

はどのようになるでしょうか。

\begin{align} \dfrac{1}{x-x_1}-\dfrac{1}{x-x_2}=\dfrac{x_1-x_2}{(x-x_1)(x-x_2)} \end{align}

は $x < x_1,x > x_2$ で負、$x_1 < x < x_2$ で正になります。したがって

\begin{align} \bigg(\dfrac{1}{x-x_1}-\dfrac{1}{x-x_2}\bigg)f(x) \end{align}

は定符号関数となり $\mathscr{H}f(x_1)-\mathscr{H}f(x_2)\neq 0$ が得られます。このときも $f$ はヒルベルト変換の零点ではないことが分かりました。

ここで特徴的な性質は $1/(x-x_1)-1/(x-x_2)$ という関数が $x=x_1,x_2$ でのみ符号をスイッチさせるということです。これを $\kappa$ にも反映させてみましょう。任意の $y_1 < y_2$ に対して

\begin{align} -\{1+(x-y_1)\kappa(x,y_1)\}(x-y_2)+\{1+(x-y_2)\kappa(x,y_2)\}(x-y_1)\ge 0 \end{align}

こんなことを色々とやっていると、試行錯誤の結果、次のような拡張を考えることになります。

i). $a\in\mathbb{R}\cup\{-\infty\},b\in\mathbb{R}\cup\{\infty\}$ とする。$\kappa:(a,b)^2\to\mathbb{R}$ は連続関数である。
ii). $c_0$ が存在して $-1\le (x-y)\kappa(x,y)\le c_0$ が成立する。
iii). 連続な有界関数 $\eta:(a,b)\to\mathbb{R}^+$ が存在して $y_1 < y_2$ のとき

\begin{align} -\eta(y_1)\{1+(x-y_1)\kappa(x,y_1)\}(x-y_2)+\eta(y_2)\{1+(x-y_2)\kappa(x,y_2)\}(x-y_1)\ge 0 \end{align}

このような $\kappa$ に対して

\begin{align} K(x,y)=\dfrac{1}{x-y}+\kappa(x,y) \end{align}

を積分核とする積分変換

\begin{align} \mathrm{pv.}\int_a^bK(x,y)f(x)\,dx \end{align}

をヒルベルト変換の拡張と考えることにしましょう。今回はここまで。次回は積分核の性質を調べていきます。(written by J.Nishigata)

研究27- ヒルベルト変換を拡張する方針