前回はフェルマーの原理を用いてレンズの動作の話をしました。$A=(0,a),a > f_0$ にある点光源はレンズの公式

\begin{align} \dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{b}=\dfrac{1}{f_0} \end{align}

で決まる $B=(0,-b)$ で結像します。今回調べるのは、結像の状態に若干の遊びをもたせたとき、どのくらいの $a$ の範囲で結像していると見做せるのかという問題です。

結像した点光源は「点」ですが、結像位置からズレると点ではなく円板(錯乱円という)になります。結像の状態に遊びを設けるということは、錯乱円の半径に閾値 $\delta_0$ を設定して、閾値未満の円板を点とみなすということです。この閾値の円板を許容錯乱円と呼びます。

錯乱円を結像位置の遊びに換算しましょう。開口径を $R$ とおくと

\begin{align} \dfrac{R}{R+\delta_0}b < \tilde{b} < \dfrac{R}{R-\delta_0}b \end{align}

の範囲で結像していても $B$ の位置での像は許容錯乱円以内に収まります。続いてこれを $a$ の遊びに換算します。

\begin{align} \dfrac{Rbf_0}{Rb-Rf_0+\delta_0f_0} < \tilde{a} < \dfrac{Rbf_0}{Rb-Rf_0-\delta_0f_0} \end{align}

この範囲にある点光源は $B$ の位置で結像していると見做せます。$a$ の遊びのボリューム

\begin{align} \dfrac{Rbf_0}{Rb-Rf_0-\delta_0f_0}-\dfrac{Rbf_0}{Rb-Rf_0+\delta_0f_0}=\dfrac{2f_0^2Rb\delta_0}{(Rb-f_0R)^2-(f_0\delta_0)^2} \end{align}

のことを被写界深度と呼びます。被写界深度を $R$ の関数として考えてみましょう。概形だけ見ると

\begin{align} \dfrac{R}{R^2-R_0^2} \end{align}

これを微分してみると

\begin{align} -\dfrac{R^2+R_0^2}{(R^2-R_0^2)^2} < 0 \end{align}

すなわち傾きは常に負です。したがって $R > R_0$ の領域で単調減少となることが解ります。今の場合は

\begin{align} R > \dfrac{f_0\delta_0}{b-f_0} \end{align}

です。開口径を大きくする程、被写界深度は狭くなります。パンフォーカス撮影で開口を絞る理由が解りましたね。

もう一つ、被写界深度はどのくらい広くできるのか調べてみたいと思います。これは簡単で、被写界深度の式の分母を零とするのが必要条件です。

\begin{align} R = \dfrac{f_0\delta_0}{b-f_0} \end{align}

よく使う形に書き換えると

\begin{align} b=\dfrac{f_0\delta_0}{R}+f_0 \end{align}

このように焦点距離から少し遠ざけて $B$ を設定すると被写界深度は無限になります。なお、このときの焦点の合う $a$ の範囲は

\begin{align} \tilde{a} > \dfrac{f_0\delta_0+Rf_0}{2\delta_0} \end{align}

となります。許容錯乱円が開口に比べて充分小さいと仮定すると

\begin{align} \tilde{a} > \dfrac{f_0\delta_0+Rf_0}{2\delta_0}\approx\dfrac{Rf_0}{2\delta_0} \end{align}

更に(後の方で登場しますが)許容錯乱円の半径をレイリー限界に設定すると

\begin{align} \dfrac{Rf_0}{2\delta_0}=\dfrac{R^2}{1.22\lambda} \end{align}

と書くこともできます。今回はここまで。幾何光学の話は一旦クローズします。光学関連の仕事にとって幾何光学は、光学系の設計などによく用いる最低限のツールだと思いますので、使いこなせるようになっておきたいですね。次回は、光のパラダイムに大きな影響を与えたホイヘンスの話をします。(written by J.Nishigata)

光・波動4- 被写界深度の計算をやってみる