前回、幾何光学の公理であるフェルマーの原理を用いて、光の直進性、反射、屈折を説明しました。今回はレンズの動作について調べてみたいと思います。

レンズとは屈折現象を用いた、入射する平行光線を 1 点(焦点)に集め、かつ焦点を通る入射光を平行光線へ変換する光学素子です。前者の機能はコンデンサ、後者の機能はコリメータと呼ばれています。

レンズを通過することにより、どのくらい飛行時間が遅延するのか考えてみます。焦点距離 $f_0$ のレンズを原点にレンズ面が $y=0$ となるように設置しましょう。ここに平行光をレンズに垂直に入射させます。平行光は、無限遠にある点光源から得られたものと考えると、レンズ面に到達したときの各平行の光路の飛行時間はすべて等しいことになります。

レンズへの入射位置に応じて $\tau(x)$ の時間遅延が生じるとしましょう。フェルマーの原理を使うと

\begin{align} \tau(x)+\dfrac{\sqrt{f_0^2+x^2}}{c_0}=\mathrm{const.}(=\tau_0) \end{align}

が得られます。遅延が分かったので、任意の 2 点間の光路を考えてみましょう。$A=(a_1,a_2),a_2>0,B=(b_1,b_2),b_2<0$ 間の飛行時間を計算すると

\begin{align} \bigg|\dfrac{x-a_1}{a_2}\bigg|\ll 1,\ \bigg|\dfrac{x-b_1}{b_2}\bigg|\ll 1,\ \bigg|\dfrac{x}{f_0}\bigg|\ll 1 \end{align}

の仮定の下で

\begin{align} &\dfrac{\sqrt{a_2^2+(x-a_1)^2}+\sqrt{b_2^2+(x-b_1)^2}}{c_0}+\tau_0-\dfrac{\sqrt{f_0^2+x^2}}{c_0}\\ &\approx \dfrac{1}{2c_0}\bigg(\dfrac{1}{a_2}-\dfrac{1}{b_2}-\dfrac{1}{f_0}\bigg)x^2+\dfrac{1}{c_0}\bigg(-\dfrac{a_1}{a_2}+\dfrac{b_1}{b_2}\bigg)x+\dfrac{1}{c_0}\bigg(a_2+\dfrac{a_1^2}{2a_2}-b_2-\dfrac{b_1^2}{2b_2}-f_0\bigg)+\tau_0 \end{align}

この最小値を与える $x$ が、$A,B$ 間の光路で経由するレンズ上の点となっています。一般的に、この飛行時間は $x$ に関する放物線になるのですが、$x^2$ と $x$ の係数が零の場合に限り定数値関数になります。任意のレンズ上の点を通る光路が実現し、すなわち $A$ から発した光は $B$ で結像することが解ります。このとき $x^2$ の係数からはレンズの公式が得られ、$x$ の係数からは倍率が得られます。

今回はここまで。次回は被写界深度の話をします。(written by J.Nishigata)

光・波動3- 幾何光学で説明するレンズの話