今回はフーリエ変換の応用例として信号処理の話をしていきます。話を簡単にするために、前回説明した STFT 不確定性原理は無視できることにしましょう。

電気信号はあらゆる要因で劣化します。このあたりはモデルをしっかりと作り、理論式を導出しておくべきですが、今回は端折って以下のような畳込み積分型に劣化しているものとします。

\begin{align} g=k\ast f \end{align}

関数 $k$ がどのような影響を及ぼしているのかを明確にするためには、スペクトルを調べれば良いです。畳込み定理を使うと

\begin{align} G=KF \end{align}

すなわち $k$ の周波数特性分だけ信号の周波数特性が変化しています。必要な周波数帯が決まっている場合は、$k$ の周波数特性がその周波数帯を選択するように設計すれば良いでしょう。例えば平滑化フィルタやガウシアンフィルタはローパスフィルタとして、ラプラシアンフィルタはハイパスフィルタとしてよく使われます。

このような能動的に劣化を使う用途とは別に、出力信号から入力信号を回復させたいことも度々あります。理論的には出力信号のスペクトルを劣化関数 $k$ のスペクトルで割り算すれば入力信号のスペクトルが得られます。正確には、劣化関数のスペクトルの零点の測度が零であれば回復可能です。

ここで理論上と書いた理由は、劣化関数の零点の誤差やスペクトルが消えてしまっているところでは割れないという問題、ノイズの問題など幾つかの問題が、実用上では回復の本質となるからです。

これらの問題の解決策として有名なウィーナーフィルタの話を少しだけしましょう。

\begin{align} g=k\ast f+n \end{align}

このようなノイズ $n$ が含まれる場合を考えましょう。$f-w\ast g$ のエネルギーを最小化するフィルタ $w$ をウィーナーフィルタと呼びます。パーセバルの関係式を用いれば、$F-WG$ のエネルギーを最小にするフィルタとも言い換えられます。各周波数ごとに $W$ を設計してみましょう。$G$ にモデルの式を代入すると

\begin{align} F-WG=(1-WK)F-WN \end{align}

となります。ノイズと入力信号を互いに相関しない統計量として扱うことにします。パワースペクトルの期待値を計算すると

\begin{align} \{|K|^2E(|F|^2)+E(|N|^2)\}\bigg|W-\dfrac{K^{\ast}E(|F|^2)}{|K|^2E(|F|^2)+E(|N|^2)}\bigg|^2+\dfrac{E(|F|^2)E(|N|^2)}{|K|^2E(|F|^2)+E(|N|^2)} \end{align}

となり、これを最小化する $W$ は

\begin{align} W=\dfrac{K^{\ast}E(|F|^2)}{|K|^2E(|F|^2)+E(|N|^2)} \end{align}

のように求まります。期待値を実験的に得ることは難しいかもしれませんが、時間平均で近似してしまえばノイズの期待値は得ることができます。入力信号の時間平均は定常的な信号である仮定の下で出力信号の時間平均や出力信号平均とノイズ平均の差で近似してしまいましょう。これでウィーナーフィルタを計算できますね。

この辺りで 2 次元熱伝導方程式から続いていた話は終わりです。次回は、残すところの 3 次元での熱伝導方程式に挑戦してみましょう。(written by J.Nishigata)

フーリエ13- スペクトルで見る信号処理