蒸気機関といえば産業革命です。蒸気機関を動力源とするマシンは工業化を押し進め、軽工業を確立しました。GDP も上昇し、そんな活気あふれる時代の数学物理学とはどんなものだったのか考えてみましょう。

蒸気機関にとって重要なことは熱の制御です。効率よく熱から仕事を取り出すことは重要な問題でした。熱を仕事へ変換する簡単なモデルはシリンダーの熱膨張収縮モデルです。シリンダー容器に封入された気体に熱を伝導させ、気体の温度を上昇させることにより圧力上昇を生み出します。

熱の伝搬を原理的に知ることは当時の基礎学問です。ということで、熱伝導の話をしていこうと思います。熱といえば温度で測るイメージがあるでしょう。まずは、熱と温度の関係について考えてみましょう。

熱を伝える物質のことを「媒質」と呼びます。1 グラムの媒質の温度を 1 度上昇させるためにはどのくらいの熱量が必要でしょうか。これは「比熱 $c$」と呼ばれる媒質固有の定数です。比熱に媒質の密度 $\rho$ を掛けると、単位質量当たりではなく単位体積当たりの話になります。温度 $u$ の媒質がもつ熱量は、単位体積当たり以下の式で書くことができます。

\begin{align} q=c\rho u \end{align}

単位体積当たりの熱量を温度で表すことができました。これを使ってひと塊の任意の領域(連結領域) $\Omega$ に含まれる総熱量を求めてみると

\begin{align} c\rho\int_{\Omega}u\,dV \end{align}

今、熱の伝導を考えたいので、この領域に熱が流入したり流出したりするイメージをもちましょう。熱の流れという量を定義する必要が生じます。流れは向きをもっている、すなわちベクトル量です。ベクトルに直交する単位面積の面を単位時間当たりどのくらいの熱が通過するのか(フラックスといいます)、これで熱の流れを表す量 $f$ が定義できます。

$\partial\Omega$ での外向きの面素を $n\,dS$ とかくと、単位時間当たりに領域 $\Omega$ に流入する熱量(流入をプラス、流出をマイナスと考える)は以下のようになります。

\begin{align} -\int_{\partial\Omega}\langle f,n\rangle\,dS \end{align}

熱が流入した結果 $\Omega$ の総熱量は増加します。単位時間当たりの増加を考えれば良いので、時間微分をします。

\begin{align} -\int_{\partial\Omega}\langle f,n\rangle\,dS=c\rho\int_{\Omega}\partial_tu\,dV \end{align}

熱が入ってきた分だけ温度が上昇するという直感的には自明な式です。熱の正体はエネルギーなので、エネルギー保存則と等価ですね。

最後に少しテクニカルなことをやります。ストークスの公式というものはご存じでしょうか。

\begin{align} \int_{\partial\Omega}\omega=\int_{\Omega}d\omega \end{align}

これを使うとエネルギー保存の式は以下のようになり、積分記号のところが揃います。

\begin{align} -\int_{\Omega}\mathrm{div}f\,dV=c\rho\int_{\Omega}\partial_tu\,dV \end{align}

領域の任意性を使うと、積分の中身同士が等しいことが分ります。

\begin{align} -\mathrm{div}f=c\rho\partial_tu \end{align}

エネルギー保存則のような式を積分系の式、最後に得られたような式を微分系の式と呼びます。今回はこの辺で一旦終了。(written by J.Nishigata)

フーリエ1- フーリエ変換説明へ向けて、蒸気機関の時代の数学と物理学