コスト関数の積分領域 $\Omega$ が有界であれば STFT 不確定性の課題は解決できますね。では、計算量はどの様になるでしょうか。最初に気になるのは冪級数のオーダーです。理論上は無限級数で書いていますが、実際に使う場合には有限の値で止めなければなりません。以前ノンブラインド-デコンボリューションのときに注意したことは、量子化やノイズに留意してかなり制限されるということでした。具体例では $3$ 次のラプラシアンで止めていましたね。

今回も同様になるかというと、実はあまり気にする必要はありません。ノンブラインドのときの冪級数の係数は理論値でしたが今回のブラインドの場合は実験値で係数が決まります。量子化やノイズによって自動的に係数が小さくなるので問題が生じないということです。

とはいっても、浮動小数点の仮数部のビット落ちが生じない範囲で次数を決める必要があります。

コスト関数で実行される計算は、各冪数のラプラシアン演算、円周に渡る積分、自乗平均の展開、$2$ 次形式の極値計算すなわち行列計算だけです。前半の $2$ つは FIR フィルタリングで記述できるので簡単ですね。ラプラシアンに関しては畳込みの公式を使わずに実空間で実行した方が高速だと思います。

このコスト関数は $1$ 回の計算で係数 $\alpha,\beta$ を算出します。したがって従来技術のような反復処理に伴う計算量の肥大化も生じることはありません。計算量の課題も解決できていることが分かりますね。

今回はここまで。次回は環状項の近似精度の話をします。(written by J.Nishigata)

研究97- STFT 不確定性の課題と計算量の課題の解決