前回の最後に得られた式は、$x_1$ に沿った $g$ の導関数に関する関係式です。では、$x_1$ に沿って $f$ を計算したらどうなるでしょうか。

\begin{align} -\partial_{x_1}f(x_1)^2+\|\nabla f(x_1)\|^2=(\partial l_1^{-1})^2\|\partial x_1\|^2\|\{\partial_{x_1}f(x_1)\}x_1-\nabla f(x_1)\|^2 \end{align}

右辺にコーシーの不等式を使うと

\begin{align} -\partial_{x_1}f(x_1)^2+\|\nabla f(x_1)\|^2\ge(\partial l_1^{-1})^2\langle \partial x_1,\nabla f(x_1)\rangle^2=\partial (fx_1l_1^{-1})^2 \end{align}

等号ではなく不等号の評価になりました。これを証明に使います。表記を簡単にするために

\begin{align} &F=(fx_1l_1^{-1}),\ G=(gx_1l_1^{-1}),\\ &H=(hF)^2\{(\alpha F)^2+\partial F^2\}-(hG)^2\{(\alpha G)^2+\partial G^2\} \end{align}

とします。前回の最後と今回の最初に示した式より

\begin{align} &(\alpha Wf)^2\ge(hF)^2\{(\alpha F)^2+\partial F^2\},\\ &(\alpha Wg)^2=(hG)^2\{(\alpha G)^2+\partial G^2\} \end{align}

したがって $H$ は上から

\begin{align} H\le (\alpha Wf)^2-(\alpha Wg)^2=0 \end{align}

と評価できます。一方、下からはどのように評価できるでしょうか。

\begin{align} H=(\alpha F(hF))^2-(\alpha G(hG))^2+((hF)^2-(hG)^2)\partial G^2+(hF)^2(\partial F^2-\partial G^2) \end{align}

のように式変形します。$F < G$ ならば $th(t)$ の狭義単調減少性より $(F(hF))^2-(G(hG))^2 > 0$ が成立します。また、$th(t)$ が狭義単調減少ということは、$h$ も当然狭義単調減少であり、$(hF)^2-(hG)^2 > 0$ も成立します。したがって $F < G$ ならば

\begin{align} H > (hF)^2(\partial F^2-\partial G^2) \end{align}

上下からの評価より $|\partial F| < |\partial G|$ となります。ここで

\begin{align} \partial G=\|\partial x_1\| > 0 \end{align}

だったことを思い出しましょう。$\partial G-\partial F > 0$ が成立しますね。$G(0)-F(0) > 0$ ですので $G(s)-F(s)$ は $s\ge 0$ で狭義単調増加であることが分かります。

ここで $H$ の下からの評価をもう一度見直しましょう。$f\big|S^{n-1}$ は最小値 $m > 0$ と最大値 $M$ をもちます。また $c=G(0)-F(0)$ とおくと $G-F \ge c$ が成立します。これらに注意すると

\begin{align} H&\ge(\alpha F(hF))^2-(\alpha G(hG))^2+(hF)^2(\partial F^2-\partial G^2)\\ &\ge\alpha^2F(hF)(F(hF)-G(hG))+h(m)^2(\partial F^2-\partial G^2)\\ &\ge\alpha^2Mh(M) (F(hF)-G(hG))+h(m)^2(\partial F^2-\partial G^2)\\ &\ge\alpha^2Mh(M)\inf_{m < t < M}\{th(t)-(t+c)h(t+c)\}+h(m)^2(\partial F^2-\partial G^2) \end{align}

したがって或る $M_0>0$ が存在して

\begin{align} \partial G^2-\partial F^2 > M_0 \end{align}

という評価が成り立ちます。更に $\partial G+\partial F < 2\partial G=2/\partial l_1^{-1}$ を使って

\begin{align} \partial G-\partial F > \dfrac{M_0}{2}\partial l_1^{-1} \end{align}

この評価式を $0$ から $l_1(\infty)$ に渡って積分してみましょう。右辺は $\infty$ に発散するため $G-F$ も下から $\infty$ で評価され発散することになってしまします。しかしこれは、$F,G$ が有界であることに反するため、結局背理法により最初の仮定である $f(x_0) < g(x_0)$ がダメだったことが導かれます。$f(x_0) > g(x_0)$ としても同様の議論で NG ですね。したがって球面上では $f=g$ であることが導かれました。

今回はここまで。次回は $th(t)$ が狭義単調増加の場合を考えましょう。(written by J.Nishigata)

研究66- ウィンターニッツ変換その２