前回、次のような関数を定義しました。

\begin{align} &A(t)=\sqrt{t^2+1+\sqrt{4t^2-1}},\\ &B(t)=\sqrt{t^2+1+\sqrt{4t^2-4}} \end{align}

今回はちゃんとやろうとすると計算が非常に多いので、概略のみを記載することにします。まず、$A,B$ が可換であるか否かを調べます。

\begin{align} BA(t)&=\sqrt{A(t)^2+1+\sqrt{4A(t)^2-4}}\\ &=\sqrt{t^2+2+\sqrt{4t^2-1}+2\sqrt{t^2+\sqrt{4t^2-1}}},\\ AB(t)&=\sqrt{B(t)^2+1+\sqrt{4B(t)^2-1}}\\ &=\sqrt{t^2+2+\sqrt{4t^2-4}+\sqrt{4t^2+3+4\sqrt{4t^2-4}}} \end{align}

これらを比較して $BA(t)>AB(t)$、すなわち $A,B$ は非可換ということが分かります。この非可換な関数 $A,B$ を用いて次のような手順で関数列 $\{A_i,B_i,C_i,D_i\}$ を作りましょう。

まず、$\{A_i,B_i\}$ の初期値は $A_0=A,B_0=B$ とします。$A_i,B_i$ は非可換かつ $A_i(t)>t,B_i(t)>t$と仮定しましょう。$A_iB_i\neq B_iA_i$ なので $A_iB_i,B_iA_i$ の内で大きい方を $C_i$ 小さい方を $D_i$ とおきます。これを用いて

\begin{align} A_{i+1}=D_i^{-1}C_i,\ B_{i+1}=C_iD_i^{-1} \end{align}

とおきます。すると、帰納的に

i). $A_i(t)>t,B_i(t)>t$ 。
ii). $A_i,B_i$ は非可換。

がすべての $i$ で成立し、$\{A_i,B_i\}$ は無限列となります。さらにこの関数列は

\begin{align} \max\{A_i(t),B_i(t)\}\to 0\ \text{as }i\to\infty \end{align}

という性質を満たします。以上で恒等写像に収束する自明ではない関数列 $E_i$ を $A,B$ の合成で構築することができました。

\begin{align} \dfrac{h(E_i(t))-h(t)}{E_i(t)-t}\to\partial h(t)\ \text{as }i\to\infty \end{align}

これで $\partial h$ が計算できるようになります。今回はここまで。次回もこの続きをやります。(written by J.Nishigata)

研究6- 大きい関数クラス上でのポンペイユ変換の反転公式その２