前回、顕微鏡分野で用いられる分解能の定義としてレイリー限界 $1.22\lambda F$ をやりました。この値が小さい程、微細なものが観察し易くなるのですが、下限値がどのような値であるか気になりますね。仮に幾らでも零に近づけることができるならば、点光源を厳密に点像として集光できることになります。

今回は、F-値の下限値を調べることによってこの問題を解決しましょう。

回転対称な集光系の同軸上に、軸と直交する被写体 $dS$ をおきます。$dS$ での輝度分布を、軸方向を極とする球面座標表示で $I(\theta,\phi)$ としておきましょう。$(\theta,\phi)$ 方向の光度は

\begin{align} I(\theta,\phi)\cos\theta\,dS \end{align}

球面上でのボリュームを持たせると

\begin{align} I(\theta,\phi)\sin\theta\cos\theta\,dS\,d\theta\,d\phi \end{align}

となります。このエネルギーを保存するように結像 $d\tilde{S}$ が生じると考えましょう。

\begin{align} I(\theta,\phi)\sin\theta\cos\theta\,dS\,d\theta\,d\phi=\tilde{I}(\tilde{\theta},\tilde{\phi})\sin\tilde{\theta}\cos\tilde{\theta}\,d\tilde{S}\,d\tilde{\theta}\,d\tilde{\phi} \end{align}

輝度の保存性より $I=\tilde{I}$ であり、かつ集光系の回転対称性より $\phi=\tilde{\phi}+\pi$ すなわち $d\phi=d\tilde{\phi}$ が成立します。これを考慮してエネルギー保存の式を簡単にすると

\begin{align} \sin\theta\cos\theta\,dS\,d\theta=\sin\tilde{\theta}\cos\tilde{\theta}\,d\tilde{S}\,d\tilde{\theta} \end{align}

$dS$ から $d\tilde{S}$ へ結像するときの倍率を $M$ としておきましょう。面積は長さの比の自乗で効くため $M^2\,dS=d\tilde{S}$ ですね。これも代入して $dS$ を消去しましょう。

\begin{align} \sin\theta\cos\theta\,d\theta=M^2\sin\tilde{\theta}\cos\tilde{\theta}\,d\tilde{\theta} \end{align}

これを積分すれば、被写体側から見た開口角を $\theta_0$、像側から見た開口角を $\tilde{\theta}_0$ として

\begin{align} \sin^2\theta_0=M^2\sin^2\tilde{\theta}_0 \end{align}

が得られます。平方根をとれば

\begin{align} \sin\theta_0=M\sin\tilde{\theta}_0 \end{align}

この関係式は、アッベの正弦条件と呼ばれています。さて、倍率は何であったかというと、ワークの距離 $a$ と結像距離 $\tilde{a}$ の比でしたね。

\begin{align} a\sin\theta_0=\tilde{a}\sin\tilde{\theta}_0 \end{align}

レンズの公式の成立を維持しながら $a$ を無限遠へ飛ばしてみましょう。左辺は開口半径 $d_0/2$ へ収束し、一方右辺は $\tilde{a}$ が焦点距離 $f_0$ へ収束します。したがって

\begin{align} \dfrac{1}{2F}=\sin\tilde{\theta}_0 \end{align}

が成立します。この式の左辺は開口数と呼ばれています。顕微鏡分野では F-値よりも開口数の方が馴染みがあります。ついでに覚えておくと良いでしょう。

以上で F-値の下限値が分かります。$\sin$ 関数の上限値は $1$ ですので開口数の上限値も $1$ です。したがって F-値の下限値は $0.5$ であることが導かれます。

結局、レイリー限界を小さくするには $0.61\lambda$ という限界があることが分かりました。これをアッベ限界と呼びます。今回はここまで。次回は今回の話の修正、液浸レンズの話をします。(written by J.Nishigata)

光・波動36- 分解能の下限値を与えるアッベ限界について