前回はキルヒホッフの積分定理をやりました。

\begin{align} 4\pi u(X)=-\int_{\partial\Omega}(u\partial_nv-v\partial_nu)\,dS \end{align}

この式は、左辺の $v$ に $X$ を中心とする球面波を代入すると成立しますが、$v$ には

\begin{align} v=\dfrac{e^{\pm i\omega\|x-X\|/c}}{\|x-X\|} \end{align}

のように $2$ 通りの代入の仕方があります。今回の話は、物理学的に符号の意味を考えましょう、という内容です。

\begin{align} \dfrac{e^{i\omega\|x\|/c}}{\|x\|} \end{align}

は原点を中心とする球面波ですが、時間の方程式 $\partial^2 T=-\omega^2T$ の解を掛ければ時間発展する球面波にすることができます。ここで、独立な 2 解

\begin{align} \dfrac{e^{i\omega\|x\|/c}}{\|x\|}e^{\pm i\omega t} \end{align}

の物理学的な意味を考えてみます。$\omega/c$ は波数ですね。$k$ と置きましょう。指数の項をまとめて書くと

\begin{align} \dfrac{e^{i(k\|x\|\pm\omega t)}}{\|x\|} \end{align}

となります。この波の等位相面は $k\|x\|\pm\omega t=\mathrm{const.}$ となりますが、この面の伝搬速度は $\partial_t\|x\|=\mp \omega/k=\mp c$ です。ここで物理学的な解釈ですが、球面波は拡散すべき、すなわち伝搬速度は正(外向き)であるべきです。この解釈により時間発展する球面波は一方の

\begin{align} \dfrac{e^{i(k\|x\|-\omega t)}}{\|x\|} \end{align}

に決定します。定常状態のもう一方の球面波に対しても同様に考えると

\begin{align} \dfrac{e^{\pm i(k\|x\|-\omega t)}}{\|x\|} \end{align}

が物理的に正しい伝搬する球面波となります。$\Omega$ は原点を含まないとして、この球面波の一方(正の方)をキルヒホッフの積分定理の $u$ に代入してみましょう。

\begin{align} 4\pi u(X)&=-\int_{\partial\Omega}\dfrac{e^{i(k\|x\|-\omega t)}}{\|x\|}\dfrac{\langle n,x-X\rangle}{\|x-X\|}\bigg(-\dfrac{1}{\|x-X\|}\pm ik\bigg)\dfrac{e^{\pm i k\|x-X\|}}{\|x-X\|}\,dS\\ &\quad +\int_{\partial\Omega}\dfrac{e^{\pm ik\|x-X\|}}{\|x-X\|}\dfrac{\langle n,x\rangle}{\|x\|}\bigg(-\dfrac{1}{\|x\|}+ik\bigg)\dfrac{e^{i(k\|x\|-\omega t)}}{\|x\|}\,dS\\ &=\int_{\partial\Omega}\dfrac{e^{i(k\|x\|-\omega t)}}{\|x\|}\dfrac{e^{\pm i k\|x-X\|}}{\|x-X\|}\bigg\{-\dfrac{\langle n,x-X\rangle}{\|x-X\|}\bigg(-\dfrac{1}{\|x-X\|}\pm ik\bigg)+\dfrac{\langle n,x\rangle}{\|x\|}\bigg(-\dfrac{1}{\|x\|}+ik\bigg)\bigg\}\,dS \end{align}

中括弧の項は補正項と呼ばれています。ちょっと煩雑ですが、重要な部分は補正項ではなく球面波の積の部分です。この部分だけ取り出してみると $x$ での複素振幅

\begin{align} \dfrac{e^{ik\|x\|}}{\|x\|} \end{align}

に時間発展する球面波

\begin{align} \dfrac{e^{\pm ik\|x-X\|}}{\|x-X\|}e^{-i\omega t} \end{align}

が掛かっていると読み変えることができます。この球面波が物理学的に整合するためには、複号は正でなけれななりません。同様にですが、 $u$ にもう一方の $e^{-i(k\|x\|-\omega t)}/\|x\|$ を代入した場合は複合は逆の負になります。

今回はここまで。次回はキルヒホッフの回折モデルをやります。(written by J.Nishigata)

光・波動19- ホイヘンスの原理